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「・・・・・・なーーーーーーによっもう!!!あーんな言い方しなくてもいいじゃん。
まぁ、いいや。どうでもいい。あんなやつのことなんてどうでもいいからさっさと終わらせちゃお」
一息にぼそぼそと呟きながら、席に戻る。
カリカリカリ・・・カリカリ・・・・・・・ カリ・・・・
「・・・・・・ばかまぐり」
本当は、自分に対して怒っていた。
プライドが高い自分が、真栗に八つ当たりをしてしまった事。
一人になって、われに返って素直になって、
‘こんな自分大嫌い’
そう強く思った。
ポロッ・・・
ほんの一滴だけ、涙がひざに落ちた。
けれどもそれは続く事はなかった。
服の肩でちょっと目元を拭うと、まおらはまたゆっくりと仕事を続ける。
ふと、懐かしい甘いかおりがまおらの鼻をかすめた気がした。
瞬間、
カラカラ・・・・
引き戸が開いた。
「えっ・・・?」
真栗が顔を出す。
無言で教室に入ってくると、まおらの1つ後ろの席に腰を下ろした。
表情が見れないまま、まおらは仕事を続ける、ふりをした。
「反則」
「は?!」
思わず振り向く。
真栗は怒ったような顔をしていた。
「強いこと言って、後で泣くんは、反則だって言っとんじゃ」
「・・・泣いてなんかない」
むすっとした顔をしてまおらが言う。
実際、本当にほんの一滴だけだった。
ふと席を立った真栗はまおらの横に来ると、いきなりまおらの顔に右手を伸ばしてきた。
ビクッ、反射的にをつぶる。
あたたかい手の甲が、優しく目の下と頬に触れた。
「くま、すーごいぞ?」
少しだけ優しい顔をして、真栗が言った。
自分の顔が赤くなっているのに気づきながら、
「・・・寝てるよ」
やっぱり無愛想に手をどける。
「顔しか取り柄ねぇのに」
スパァァンっ
書類は思い切り真栗の額に命中。
「いっ、てーーーーーーー;;;」
「何言ってんの!サイアク!!!調子乗るなっばかまぐ!!!!」
「だーかーら、・・・ん。」
・・・いつから持ってきていたのだろう。気づかないはずなかったのに。
茶色い紙のバッグから、真栗が差し出したもの。
白いトールサイズの紙のコップに、茶色いスリーブ。
中身なんて、香りだけで分かる。
「キャラメルマキアート・・・」
ふたを開けると、コーヒーとキャラメルの優しい香りが湯気と共にふわっと立ち込めた。
滑らかな泡は、コーヒーが本当に下にあるのかさえ分からない程にたっぷりとカップ占めていて、
その上にびっしりと細やかな網目を描くソースのうす茶から純白をちらほらと覗かせていた。
「これ・・・」
「だからさ、少し休め、な?」
そのまっすぐな目に、まおらは何も答えられなくなって下を向くと、ひとくちすすった。
・・・あ、この味。・・・・・・降参だ。
「しかもホイップ増量、ソースもおおめ。良く覚えてるんだね」
少し笑ってまおらが言う。
いや、実際は相当に嬉しかったのだ。
「ま、ねー」
ブラックをゆっくり飲み込むと、真栗が言った。
「つかソレ、甘すぎだろ?」
「甘いのがいーんでしょー?」
目を閉じてゆっくりと飲み込む。
キャラメルの甘いかおりは、まおらの心をすっかりほぐしていた。
コーヒーの香りが立ち込める、二人だけの、
ゆったりした空気。
・・・でも真栗には、まだそれを続ける勇気がなかった。
「・・・っ、ホレ、いつまでのんびりしとるんじゃ!やんなきゃ帰れねーんだぞ?!」
「わーかってるよぅ!もう!!」
「俺はその辺で待ってるけん!とっとと済ましちゃえよー」
そういって、背を向けながらひらひらと手を振って、真栗は部屋から出て行った。
そうしてから、まおらはもう一口味わって、呟いた。
「・・・アリガト」
やっぱり、面と向かっては言えなかったのだけれど。
お祭りの空気は、ほんの少しだけ二人を優しくさせた。
まおらが窓の外をふと見ると、澄んだ夜空には星がきらきらしている。
廊下の窓から、ポケットに手を突っ込んだ真栗もそれを見ていたのは、
お互いに気づいていなかった。
(おしまい)
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